転職を経験してから気づいたこと
50代になって振り返ると、30代の転職は資産形成のペースそのものを左右していたと感じます。年収が上がったかどうかだけでなく、退職金制度の有無、企業型DCの扱い、社会保険の空白期間まで、後から効いてくる要素が多いからです。転職活動中はどうしても目先の年収や職務内容に意識が向きがちですが、資産形成という長い時間軸で見ると、見落としやすいポイントがいくつかあります。
企業型DCの移換手続きを放置するとどうなるか
30代で転職する人が増えている理由の一つに、企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入する企業の増加があります。ただ、この制度には見落とされがちな落とし穴があります。転職先に企業型DCがない場合、それまで積み立てた資産をiDeCoへ自分で移換する手続きが必要になりますが、これを一定期間内に行わないと、資産は国民年金基金連合会に自動移換されてしまいます。
自動移換されると運用ができない状態になるうえ、管理手数料だけが差し引かれ続けます。厚生労働省の資料によれば、自動移換者は一定数にのぼるとされ、手続きの存在自体を知らなかったケースが少なくないようです。転職のタイミングで書類の山に追われていると、こうした手続きは後回しにされやすい部分だと感じます。
年収アップと資産形成、タイミングのズレ
転職で年収が上がったとしても、それがすぐに資産形成へ反映されるとは限りません。引っ越しや生活水準の見直し、新しい職場での人間関係構築にかかる時間的・精神的コストを考えると、年収アップ分がそのまま貯蓄や投資に回るケースは意外と少ないものです。
たとえば同じ「年収が50万円上がった転職」でも、家族構成によって資産形成への影響は変わってきます。単身であれば上がった分をそのまま積立投資に回しやすい一方、子育て中の家庭では教育費や住宅ローンの見直しに吸収されてしまうことも珍しくありません。転職による収入増を資産形成に直結させるには、上がった分の使い道をあらかじめ決めておく姿勢が必要だと、50代になった今は思います。
転職回数が退職金と厚生年金に与える影響
退職金制度は勤続年数に応じて金額が変わる設計になっている企業が多く、転職を繰り返すほど一社あたりの勤続年数は短くなります。退職金の水準は企業ごとに差が大きいため一概には言えませんが、勤続年数の積み上げが評価される制度である以上、転職のたびにリセットされる部分があるのは事実です。
厚生年金についても、加入期間が長いほど将来の受給額に反映される仕組みなので、転職の間に生じる無職期間や国民年金への切り替え漏れは、後々の年金額に影響します。転職エージェントとの面談では年収交渉の話が中心になりがちですが、こうした制度面の確認は自分で意識しておく必要があると感じます。
転職を優先すべきか、資産形成を優先すべきか
30代の転職を考えるとき、キャリアアップを重視するパターンと、生活の安定を重視するパターンでは資産形成へのアプローチも変わってきます。
キャリアアップ重視で年収の高い業界へ転職する場合、iDeCoやNISAの掛金・投資額を年収に応じて引き上げていく余地があります。一方、ワークライフバランス重視で年収が横ばい、あるいは一時的に下がる転職を選ぶ場合は、支出の見直しを先に済ませておき、資産形成のペースを落とさない工夫が求められます。どちらが正しいという話ではなく、転職の目的と資産形成の目的を切り離さずに考える必要がある、という点がポイントだと思います。
50代の立場から30代に伝えたいこと
私自身が50代になって実感するのは、30代の選択が複利のように積み重なっていくということです。転職のたびに企業型DCの移換手続きを確実に行い、年収が上がった分の使い道を決めておき、勤続年数や加入期間が退職金・年金に与える影響を頭の片隅に置いておく。これだけでも、20年後に振り返ったときの資産状況は変わってくるはずです。
転職は人生の転機であると同時に、資産形成の設計図を書き直すタイミングでもあります。目の前の条件交渉だけでなく、少し先の家計まで視野に入れて動く価値はあると感じています。
参考情報
- 厚生労働省
- 国民年金基金連合会