まとまった金額を前に、何から手をつければいいのか
退職金の振込予定通知を受け取って、金額の桁を二度見した。そんな話を聞くことがあります。数百万円から2000万円を超えるケースまで幅がありますが、これまで給与という「毎月決まった額」でお金と付き合ってきた人にとって、一度に大きな金額が口座に入るという経験は初めてのことです。
このお金をどう扱うか。実はここでつまずく人が多いようです。銀行や証券会社から届く「退職金運用プラン」の案内を見て、何となく良さそうだからと申し込んでしまう。そんなケースが実際に問題視されているのを調べていくうちに知りました。今回は退職金の運用方法について、公的な情報や金融機関の商品性を中心に整理してみます。
退職金専用定期預金という仕組み
多くの銀行が用意しているのが「退職金専用定期預金」です。特徴は年0.5%〜3%程度という、通常の定期預金とは比べものにならない金利が提示される点にあります。ただし条件がついていることがほとんどです。
具体的には「3ヶ月満期」「同時に投資信託を一定額購入すること」といった条件です。高金利部分だけを見て申し込むと、実質的には投資信託とのセット商品になっていて、満期後は通常金利に戻る、あるいは投資信託の運用成績次第で元本割れのリスクを負う、という構造になっているケースがあります。
金融庁が公表している資料でも、退職金の運用にあたっては金融機関の勧誘方法について注意喚起がされています。「退職金だから」という理由だけで特別扱いされる商品には、それだけの理由(金融機関側の収益構造)があるという見方は持っておいたほうがよさそうです。
一括で入れるか、時間をかけて入れるか
退職金を投資に回す場合、よく議論になるのが「一括投資」か「時間分散」かという点です。
一括投資は、まとまった金額を一度に投資信託や株式に入れる方法です。理論上は、市場が右肩上がりに推移する前提であれば、早く投資したほうがリターンは大きくなります。ただし退職金は「もう次がない」お金です。投資した直後に市場が大きく下落した場合、給与収入がある現役世代のように「時間をかけて回復を待つ」という選択がしづらくなります。
これに対して時間分散は、ドルコスト平均法という考え方に基づき、一定額を定期的に投資していく方法です。たとえば1000万円を12ヶ月に分けて毎月約83万円ずつ投資に回せば、価格が高い時も安い時も平均的に買うことになり、購入価格が平準化されます。値下がり時のダメージを一度に受けるリスクを避けられる一方、市場が上昇し続けた場合は一括投資より最終的な成果が劣る場合もあります。
どちらが正解ということではなく、退職後の収入がどの程度あるか、生活費をどこから賄うかによって判断が変わってくる部分です。
生活防衛資金を先に確保する
運用方法を考える前に、まず押さえておきたいのが生活防衛資金の切り分けです。一般的には生活費の半年〜2年分程度を、普通預金や個人向け国債など元本割れしない形で確保しておくという考え方が紹介されています。
退職金全額を投資に回してしまうと、急な医療費や住宅の修繕費が必要になった時に、値下がりしているタイミングで解約せざるを得ない事態になりかねません。退職金は「増やす」お金と「守る」お金に分けて考える。この切り分けが最初の一歩になりそうです。
たとえば退職金が1500万円だったケースを想定すると、生活防衛資金として300万〜500万円程度を現金や預金で確保し、残りを新NISAのつみたて投資枠や成長投資枠を使って時間分散しながら投資に回す、という組み立て方が一つの目安として紹介されています。新NISAは非課税期間が無期限のため、退職後の長い時間軸でも活用しやすい制度と言えそうです。
金融機関の窓口で聞かれる質問
退職金の相談で銀行や証券会社の窓口に行くと、多くの場合「リスク許容度」を測るためのヒアリングシートに記入することになります。年齢、資産状況、投資経験、リスクをどこまで許容できるかといった項目です。
ここで注意したいのは、窓口の担当者は金融機関側の商品を勧める立場にあるという点です。中立的なアドバイスが欲しい場合は、独立系のファイナンシャルプランナーに相談するという選択肢も考えられます。ただし相談料がかかる場合や、相談先によって得意分野が異なる点は踏まえておく必要がありそうです。
退職金の運用は、金額が大きいだけに一度の判断ミスが生活に与える影響も大きくなります。焦って結論を出さず、生活防衛資金の切り分けと、一括か時間分散かという方針だけでも先に整理しておくと、窓口での提案を冷静に判断しやすくなるのではないかと思います。
参考情報
- 金融庁
- 全国銀行協会