給与明細の天引き、意外と中身を知らないまま働いている
給与明細を開いて、健康保険料と厚生年金保険料が引かれているのを見ても、それが具体的に何を保障してくれる制度なのか、説明できる20代はそう多くないと思います。私自身も50代になってから制度の全体像を調べ直し、若いうちに知っておけばよかったと感じた部分がいくつかありました。今回はその内容を、20代の読者に向けて整理してみます。
社会保険は4つの制度の集合体
「社会保険」とひとくくりに呼ばれていますが、実際には健康保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険という複数の制度の総称です。会社員として働いていると、このうち健康保険と厚生年金保険は給与から天引きされる形で加入し、雇用保険も一部を自己負担します。労災保険は会社が全額負担するため、給与明細には出てきません。
それぞれの役割を整理すると、健康保険は病気やけがで医療機関にかかったときの医療費負担を軽減する制度、厚生年金保険は老後の年金だけでなく障害や死亡時の給付も含む制度、雇用保険は失業時の給付や育児休業給付などをカバーする制度、労災保険は仕事中や通勤中のけが・病気を補償する制度です。天引きされている金額は「将来のための貯金」ではなく、今この瞬間からも使える保障の対価だという点は、意外と見落とされがちだと感じます。
厚生年金は「老後の年金」だけの制度ではない
厚生年金保険と聞くと、多くの人が「老後にもらう年金」というイメージだけを持っていると思います。実際には、病気やけがで一定の障害状態になったときに支給される障害厚生年金や、加入者が亡くなった場合に遺族に支給される遺族厚生年金も含まれています。20代のうちは老後の年金額よりも、こうした万が一のときの保障のほうが実感を持ちやすいかもしれません。
加入期間が長いほど将来の年金額に反映される仕組みのため、20代から厚生年金に加入している期間は、50代から加入するケースに比べて単純に加入年数を稼げるという違いがあります。同じ年収水準であっても、20代から40年近く厚生年金に加入している場合と、30代後半から20年程度しか加入していない場合とでは、将来受け取る年金額に差が生まれる構造です。この差は年齢を重ねてから取り戻すのが難しいため、早い段階で加入状況を把握しておく意味は大きいと感じます。
意外と知られていない傷病手当金という制度
健康保険には、病気やけがで働けなくなったときに給与の一部を補償する傷病手当金という制度があります。国民健康保険にはこの制度がなく、会社員として健康保険に加入している人だけが対象になる点は、知っておいて損はないと思います。
会社員として働いているうちは当たり前に感じるこの保障も、フリーランスや個人事業主として独立した後には基本的に受けられなくなります。副業を将来的な独立の足がかりとして考えている人にとっては、会社員のうちに受けられる保障の内容を一度棚卸ししておくことが、独立後のリスクを具体的にイメージする材料になるはずです。
ねんきん定期便は20代でも見る価値がある
日本年金機構から毎年送られてくるねんきん定期便は、50代になってから初めて真剣に見たという人も少なくないと思います。しかし20代・30代向けのねんきん定期便にも、これまでの加入期間や納付状況が記載されており、記録に漏れや誤りがないかを確認できます。
学生時代に国民年金の学生納付特例を利用していた場合、その期間の保険料を追納していなければ将来の年金額に影響します。追納できる期間には限りがあるため、20代のうちにねんきん定期便で加入記録を確認し、必要であれば追納を検討しておくことは、後回しにするほど選択肢が狭まる話です。
扶養の範囲を意識するタイミングは思ったより早い
社会保険には「被扶養者」という考え方があり、一定の年収基準を超えると配偶者や親の健康保険の扶養から外れ、自分自身で社会保険に加入する必要が出てきます。副業やアルバイトを掛け持ちしている場合、本業の給与に副業収入を合算した年収が基準を超えると扶養の条件に影響することがあるため、収入が増え始めたタイミングで一度確認しておく価値があります。
扶養から外れること自体は悪いことではなく、厚生年金への加入期間が増えるという意味では将来の年金額にプラスに働く面もあります。ただし手取り額が一時的に減る可能性があるため、収入の変化を把握しないまま扶養の境界を超えてしまうと、想定していなかった負担増に戸惑うことになりかねません。
50代から振り返って感じること
制度そのものは20代でも50代でも変わりませんが、加入期間や保険料の納付状況といった「記録」は、時間が経つほど取り返しがつきにくくなります。50代になってからねんきん定期便を細かく見返し、学生時代の未納期間や転職時の空白期間に気づいても、追納できる期間はすでに過ぎていることがあります。
社会保険は難しい制度に見えますが、健康保険証と年金手帳(またはマイナンバーカードでの年金記録確認)、そしてねんきん定期便という3つを手元で確認するだけでも、自分がどんな保障を受けられる立場にいるのかはかなり把握できます。給与明細の天引き項目を「よくわからないもの」のままにせず、20代のうちに一度中身を確認しておくことは、将来の選択肢を広げる小さな準備になるはずです。